この世の神秘というものは、案外身近に潜んでいるのかも知れないーー
クリス「うーん……」
ライアン「先輩、一日の終わりになに難しい顔してるんすか?」
クリス「家がなくとも生きてはいけるが、やはり不便さを感じずにはいられないな」
ライアン「何か問題でも?」
クリス「問題だらけだ。
洗濯機がないから服は洗えないし、パソコンがないから調べ物もできない」
クリス「私物を雨晒しにしておくのも抵抗がある……」
ライアン「あぁ、だったらリタを紹介しますよ」
クリス「リタ?」
ライアン「俺のマーメイドっす」
コンコン
ライアン「リタ!いるんだろー?」
ライアン「お邪魔しまーす!」
リタ「ライアン……どうしたの?」
リタ「洗濯機借りに来たの?DVD観に来た?
あ、またディナー御馳走しろっていうんでしょ?」
クリス(完全に厄介者扱いされてるな……)
リタ「……あら?この島の人じゃないわね」
ライアン「リタ、紹介するよ。俺の大学時代の先輩。
最近この島に引っ越してきたんだ」
クリス「初めまして。クリス・ブルーです」
リタ「初めまして。リタ・オレンジよ。
どうぞ、よかったら掛けて」
ライアン「俺も……」
リタ「あなたはコップ洗って」
ライアン「はい」
リタ「それで?クリスはどこから来たの?」
クリス「San Myshunoって街だよ。そこでビジネスマンをしていたんだ」
リタ「すごい!San Myshunoっていったら、一番の大都会じゃない。
クリスは都会暮らしだったのね。カッコいい」
ライアン「俺だって都会生まれだし……」
クリス(何か聞こえる……)
「リタはこの島の人?」
リタ「そう」
リタ「私は生まれも育ちもSulaniよ。
この島の自然が好きで、海洋生物学者を目指しているの」
クリス「海洋生物学者か。この島の環境は、研究に最適だね」
リタ「クリスは今、どこに住んでるの?」
クリス「実は……」
クリス「ライアンをあてにして来たから、まだ家がないんだ」
リタ「それじゃあ、公共施設暮らしなの?」
クリス(公共施設暮らし……?)
リタ「生活が大変でしょう?よかったら私の家を使って」
リタ「家電は一通り揃ってるし、インターネット環境も整ってるから調べ物もできる」
クリス「でも、一人暮らしの女の子の家にお邪魔するのは気が引けるな……」
リタ「まぁ、クリスって紳士なのね!」
リタ「勝手にスペアキー作って家に上がり込んだ挙げ句、冷蔵庫の残り物を食べ散らかして、私のベッドで眠りこけているような誰かさんの先輩だとはとても思えないわ」
クリス「完全に犯罪じゃねーか」
ライアン「……お、俺とリタの仲だから良いんすよ」
リタ「本当に気を遣わないでね。この島では、助け合いが当たり前だから」
クリス「……ありがとう」
クリス「園芸家としてまともな作物を育てられるようになったら、真っ先にリタにプレゼントするよ」
リタ「本当?」
リタ「ありがとう!楽しみにしてる」
リタ「またね」
クリス「おやすみ」
クリス「なぁ、ライアン」
クリス「リタって本当に良い子だな」
ライアン「……」
ライアン「先輩はリタの家、出入り禁止!!」
クリス「なんで!?」
バシャン
クリス「……ん?」
クリス(人魚……?)
クリス「……まさか…な」
ライアン「先輩、置いて行きますよ!!」
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恋のライバルも、身近に潜んでいるのかも知れない。
やる気スイッチです。応援よろしくお願いします。