どんな状況に陥ろうとも、エースさえいれば組織は盤石であるーー
クリス(あれからダイビングや料理に挑戦して、暇を潰すことはできたけど……)
クリス(やっぱり生活に張り合いが出ないな)
クリス「はぁ……」
ビクトリア「あら、ずいぶん大きなため息ね」
ビクトリア「こんなに美しい景色を前にして、一体何が不満なの?」
クリス「……え?」
クリス「……部長!?」
ビクトリア「久しぶりね、クリス」
クリス「どうしてここに……」
ビクトリア「最後の休暇を取りに来たの」
クリス「最後の休暇……?」
ビクトリア「えぇ。ゴールド財閥のトップが変わるから、しばらく休みは取れなくなるわ」
ビクトリア「今のうちに最後の休暇を取ろうと思った時に、あなたのことが浮かんだの」
クリス「俺ですか?」
ビクトリア「えぇ。以前、作物と一緒にこの島の写真を送ってくれたでしょう?」
ビクトリア「この美しい景色を、一度見てみたいと思ったのよ」
クリス「あぁ、そういうことですか……」
クリス「ゴールド財閥のトップが変わるって、アレクサンダー会長は引退されるということですか?」
ビクトリア「引退というより……会長の容体が、思わしくないのよ」
クリス「それじゃあ、部長は……」
ビクトリア「あら、今は私『社長』なのよ」
クリス「社長?……さすがです」
ビクトリア「まぁね」
クリス「財閥は……会社は、今後どうなるんですか?」
ビクトリア「会長職は、アレクサンダー様の御子息が継がれるようだけど……それも決定ではないわ」
クリス「御子息なんていらっしゃいました?」
ビクトリア「えぇ。長男のアレクシス様と、次男のジュリアン様がいらっしゃるわ」
ビクトリア「会長は、アレクシス様を後継者に推しているのだけれど……」
クリス「……けれど?」
ビクトリア「失踪したっていう噂があるのよ」
クリス「失踪?どうして……」
ビクトリア「事情はわからないわ」
ビクトリア「会長が後継者として育てられたアレクシス様は、姿が見えないのよ。かといって、ジュリアン様を後継者に指名する気配もないし……」
ビクトリア「先行き真っ暗ね」
クリス「そんなことになっていたなんて……」
ビクトリア「……」
ビクトリア「あなたを辞めさせたこと、少し後悔しているわ」
クリス「え?」
ビクトリア「あなたは私が知り得る限り、最も優秀なビジネスマンだった」
ビクトリア「時代が大きく変わろうとしている今こそ、あなたのような優秀な才能が必要なのに……」
ビクトリア「どうしてあなたのこと、引き留めなかったんだろう」
クリス「部長……」
ビクトリア「ごめんなさいね。わざわざ弱音吐きに来たわけじゃないのに……あなたの顔を見ていたら、つい本音が出ちゃった」
クリス「……」
ビクトリア「クリス。あなたが幸せそうなら、こんなこと絶対に言うつもりはなかったんだけど……」
ビクトリア「よかったら、戻って来ない?」
クリス「え?」
ビクトリア「もちろん、無理強いするつもりはないわ。ただ……」
ビクトリア「これだけは忘れないで。San Myshunoにも、あなたの居場所はある」
クリス「……」
ビクトリア「私は会社を代表して、いつでも歓迎するわ」
ビクトリア「どんな時代が訪れようとも輝くことができる、絶対的なエースの存在をね」
クリス「部長……」
ビクトリア「さてと、そろそろ行かないと」
クリス「行くって……もうこの時間に船はありませんよ」
クリス「よかったら、俺の家に……」
ビクトリア「ヘリを呼んでいるから平気よ」
ビクトリア「最後の休暇とはいえ、ゆっくりしている暇はないの」
ビクトリア「あなたの顔を見ることができて良かったわ」
ビクトリア「またね、クリス」
クリス「……」
クリス「部長……」
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なにかとお騒がせなゴールド家。
やる気スイッチです。応援よろしくお願いしますm(__)m