何気ないやり取りにこそ、人の本性は現れるーー
↓Season 1のまとめは、こちら。
↓Season 2の第1話は、こちら。
クリス(深い意味はないんだろうけど……)
ビクトリア『ありがとう。仕事を抜きにしても、あなたが戻ってくれて嬉しいわ』
クリス(『仕事を抜きにしても』って……どういう意味なんだろう?)
ビクトリア「クリス!」
クリス「は、はい」
ビクトリア「すぐに下の会議室に向かって頂戴」
クリス「会議室ですか?」
ビクトリア「10時から人事に関する面接があるのよ」
クリス「10時って……5分後じゃないですか」
ビクトリア「えぇ、だから急かしているの。大丈夫、役員と軽く話すだけだから」
クリス「……わかりました」
コンコン
クリス「失礼します」
クリス(グループ面接だったのか……)
クリス(異様な空気だな……仕事のために、一分一秒も無駄にしたくないって顔だ)
クリス(いや、出世のため……か。俺も昔は、こんな顔していたのかな?)
社員A「もう10時だぞ?まだ始まらないのか?」
社員B「役員が遅れているんだろう?」
社員A「ったく……ふんぞり返ってるだけで高給がもらえるなんて、いいご身分だな」
社員C「そういえば、アレクサンダー会長が亡くなったそうよ」
社員B「社内周知があったのか?」
社員C「役員が話しているのを聞いてしまったのよ」
社員B「なんてことだ……誰が跡を継ぐんだ?」
社員A「どうせバカ息子だろう?」
社員A「生まれた家が金持ちってだけで会長になれるなんて、うらやましい話だ」
クリス「……」
クリス「そんな言い方はないんじゃないか?」
社員A「あ?」
クリス「金持ちの息子が、恵まれているとは限らないだろう。それに、アレクサンダー会長の御子息はかなり優秀だと聞いたけど」
社員A「さすが、伝説の営業マン。媚びを売るのが上手いんだな」
クリス「……」
社員A「あんた知ってるぞ。伝説だかなんだか知らないけど、十年も会社を離れていた人間に何ができる?最前線で会社を守り続けてきた俺たちに、偉そうな口をきくな」
社員B「おい、言い過ぎだぞ」
社員A「おっと気をつけないとな」
社員A「売店の売り子や清掃スタッフに降格されるかもしれない」
社員C「パートに降格はあり得ないでしょう?」
クリス「俺はお前と働くくらいなら、喜んでパートになるけどな」
社員A「あ?」
クリス「この会社に在籍する社員は、それぞれが誇りを持って働いている。出世争いも結構だが、誰のおかげで毎日売店を利用できるのか、清潔なオフィスで働けるのかよく考えろ」
社員A「パートと俺たちを一緒にする気か?」
クリス「一緒にはしない。パートの方がずっと重要だからな」
クリス「少なくとも俺は、今日お前がいなくなっても困らないけど、売店の売り子や清掃スタッフにいなくなられたら困る」
社員C「確かに。その通りね」
社員A「……」
社員A「さっきから黙っているが、見ない顔だな。どこの部署だ?」
セシル「俺か?俺は最近転職してきたばかりで、どこにも属していない」
社員A「は?中途採用が、どうしてこんなところにいるんだよ」
社員B「ここに来る前は、どこにいたんだ?」
セシル「どこって……音楽業界?」
社員C「音楽業界?ビジネスマンじゃないの?」
セシル「ビジネスマンの経験はあるが……ここ十年は、作曲家だった」
社員A「は?ふざけてんのか、お前?そんな奴がどうして一流企業に中途採用されるんだよ?」
セシル「……それを知ったら、後悔することになるぞ」
社員A「後悔?面白い、話してみろよ」
セシル「ある日、実家から遣いが来たんだ」
セシル「親父が危篤状態だと。親父は俺を後継者に指名していたらしい」
セシル「冗談じゃないよな?全て弟に任せるつもりでいたのに、俺が継がないとゴールド財閥が潰れるんだと」
セシル「仕方なく後継者の座に収まってはみたものの、仕事は山積みだし、部下はロクでもない奴ばかりだし……」
セシル「早速、『転職』したことを後悔している」
セシル「あぁ、申し遅れたな。俺はお前がいうところの『バカ息子』」
セシル「次期会長のアレクシス・ゴールドだ」
社員A「か、会長……?」
コンコン
ビクトリア「失礼します」
ビクトリア「アレクシス様、選考は終わりましたか?」
セシル「あぁ、たった今終わった。解散させて良いぞ」
社員A「待ってください、会長。先ほどは失礼を……」
セシル「覚えておけ、バカ社員」
セシル「俺のことをバカ息子呼ばわりしたことは、水に流そう。だが、同じ会社の社員をバカにすることは許さない」
セシル「お前には、パートのありがたみをわからせる必要があるな」
社員A「……会長?」
セシル「お前は、今の部署から売店へ異動を命じる。俺が正式に会長の座に就いたら辞令を交付するから、覚悟しておけ」
社員A「そんな、会長……!」
セシル「お前たちも肝に命じておけよ。以上だ、解散」
セシル「あぁ、クリス・ブルー。お前は残れ」
クリス「え?俺……私ですか?」
セシル「クリス、お前には俺の専属秘書になってもらう」
クリス「え?ちょっと待ってください、俺は元々営業マンです。秘書の経験は……」
セシル「経験の有無なんて聞いていない。お前は本日付けで、俺の専属秘書だ」
クリス「まさか……」
ビクトリア「良かったわね、クリス。あなたが選ばれるって、信じていたわ」
クリス「ビクトリアさん、これは……」
ビクトリア「さぁ、帰って引っ越しの用意をしないとね」
クリス「え?引っ越し?」
ビクトリア「そうよ。あなたは、これから会長につきっきりで行動してもらうわ。ゴールド邸に引っ越さないと」
ビクトリア「あんな立派なお屋敷に住めるなんて、ラッキーね」
クリス「そんな……」
クリス(会社に復帰して間もない上に、秘書経験もない)
クリス(よりによって、会長の下で働くことになるなんて……)
セシル「なにグズグズしてるんだ、帰ってとっとと荷物をまとめろ。クビにするぞ」
クリス「……」
クリス(Sulaniに帰りたい……)
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途中でキレなかったセシルを、褒めてあげたいです。
やる気スイッチです。応援よろしくお願いしますm(__)m